2013年04月28日

藤本とし『地面の底がぬけたんです』

大谷大学の学生であれば、卒業するまでに読んでおいて欲しいな
と思う本が何冊かある。薄い文庫で読める代表的なものをあげれば、
『歎異抄』『キリスト者の自由』『ソクラテスの弁明』といったところ。
すぐにはわからないかもしれないけど、いつか効いてくる。
それと、ちょっとぼくの好みに偏って、文庫でもないけれど、一冊。
図書館では借りられるの?

――――――
著者の藤本としは、若くしてハンセン病に罹患(りかん)し、
手足の指、ほぼ全身の身体感覚、視覚を失った女性。
穏やかな語り口のなかに、隠しきれない気品を漂わせている。
構成は、第1部の随想と第2部の口述筆記。

とりわけ随想38篇は珠玉の佳品。幾重にも積み重なった
内省と葛藤の襞(ひだ)からようやく滲み出した一滴一滴を見る思いがする。
外向きの感性の喪失がかえって豊かな内向きの感性を生み出したことは
事実だとしても、それはやすやすと、時の経過につれて自然に、必然的に、
著者のうちに生まれたようなものでは決してない。

「闇の中に光を見出すなんていいますけど、光なんてものは、
どこかにあるもんじゃありませんねぇ。なにがどんなにつらかろうと、
それをきっちりひきうけて、こちらから出かけていかなきゃいけません。
‥‥自分が光になろうとすることなんです。それが、闇の中に
光を見出すということじゃないでしょうか。」(第2部、322頁)

いつか自分が光になれるという保証など、どこにもない。
ましてや、あなた自身が光になりなさい、と人を諭(さと)すことなど、
できはしない。それでも、そのような人がかつて確かにいたことは、
今を生きる者のかすかな励みになるかもしれない。
posted by pilz at 22:04| 京都 | Comment(0) | 好きな本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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